今回の日本滞在中に、面白い出会いがありました。
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間もなく大晦日というある日、所用があり僕は1人で大都市の繁華街に出かけた。元々何か買いたいものはなかったけれど、せっかく日本の都会に来たのだし、見ていれば何かあるだろうと期待して2時間くらい1人で歩き回っていた。
しかし何一つ欲しいものはなく、コーヒーでも飲んで帰ろうと思い、目に入ったのは繁華街のど真ん中にあるスターバックス。店内はとても混んでいて、お洒落な格好をした男性1人客やカップルが沢山いて、多くの人はパソコンやスマートフォンをいじりながらコーヒーを飲んでいた。僕はコーヒーを手に2階席に上がり、ガラス張りのカウンターテーブルに腰掛けて沢山の人が行き交う大通りを見下ろしてボーっとしていた。
しばらくすると、空いていた僕の隣に男性が座った。
なんとなくその人を横目に見ると、長髪で髭の40歳前後と思われる男性。そして都会ではまず見かけない民族衣装風なデザインの自然素材の服。
その程度のことはよくある話かもしれない。そういう雑貨屋の店員だったり、レザーショップの職人さんだったり。
でもその人からふわりと感じた雰囲気は、そういう俗世間的なものからかけ離れた、自然体で凛としたものだった。
僕は毎日カナダの田舎の、それこそネイティブな生き方をしている人々ばかりを見ているが、そういう人たちと同じ空気を感じ、とても興味を持った。なにしろそこはファッション雑誌から飛び出したような格好をしている人ばかりの街中なので、なおさらだ。
「すごく混んでますね。」
そこは日本なので他人にいきなり話しかけることは割と勇気がいったけど、この一言からその人に話しかけてみた。
僕自身といえば、日本では日本仕様の服装をすることにしていて、他の30前後の男性と同じように今風のコートとマフラー、片手にスマートフォン、という出で立ち。
その人も一瞬驚いたようだったが、穏やかに会話を続けてくれた。
聞くと、10年程前から長野の山の方に移り住んでいて、年末でたまたま実家のある都市まで出てきているということ。僕もたまたまカナダから帰省して繁華街をボーっと見ていたところで「なんだか似てますね」とすぐに打ち解けていろいろな話をした。
消費社会から距離を置いて、自然の中で暮らしている話。子育て環境、過疎地の小学校の話。僕からは自然の中で暮らすこと、シュタイナー学校のこと。いろんな面で驚くくらい共感できる価値観。
僕もまさかこんな街中のスターバックスで、知らない人とそんな濃厚な話ができるとは想像もしていなかったのでつい盛り上がってしまい、気づけば1時間。
僕が年明けには帰国するというと、よかったらその前に遊びに来てと言って名前と家の電話番号を紙に書いてくれた。
そう、その方は携帯はもちろん、家にインターネットもないのだ。
携帯を持たない人というのは数年前までは時々みかけたが、この時代に携帯を持たないのはかなり珍しいだろう。加えて自宅にインターネットもないというのだ。つまり、全ての連絡手段は家にある電話だけ。想像できるだろうか。僕は2度聞きしてしまった。
田舎暮らしをする若い世代は珍しくない。それでも、SNSで世界中といつでも繋がっていることが心の拠り所であったり、田舎暮らしをブログなどで発信することで自分たちをコンテンツとして稼ぎに繋げていたり。
それを全くしない、するつもりすらないというのは、すごいことだと思う。
彼も別にそうしたくてそうしているというよりは、「それがなくてもとても幸せだから」という。
とにかく、僕は電話番号のメモを大切にしまい、握手をして年の瀬の繁華街で別れた。
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この話、もう少し続きます。今日はこのくらいで。
暮らしを重ねる | デジタルパパの子育て日記
[…] 日本の大都会での静かな出会い…の続き。 街中のコーヒーショップで偶然隣に座った人を訪ねました。文章にしやすくするため沢木さんとします。 […]